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伏屋のづ

Author:伏屋のづ
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書き殴った【おむつ・おもらしフェチ】系妄想置いてます
だいたい月一でもえないごみがふえるよ
文章も構成も壊滅的なんで重箱の隅突きなど歓迎中
萌えについて模索中なので作風も質もブレまくるよ

2016/01
>あいかわらずにほんご書けてねえ
>よかったら好きなシチュ語ってもらえるとうれしいです
@ごみばこ

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(書けたら書くかも)

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trash #035


 陸上は一人でもできる。
 それが高森茅乃が五年生になってから部活を決めた理由だった。
 走っている間は一人だ。だから、体操着が汗だくになるほど夢中になった。
 ゴールなんかなくてもよかった。めんどくさい毎日が待っているだけだ。
「お、おつかれさまです、せんぱい! ドリンクもってきましたっ」
「いらない」
「高森さん、のまなきゃダメだよ。汗かいてるし、脱水症になると……」
「いいって言った」
 うれしそうに集まったコウハイも、自分より遅いセンパイもめんどくさかった。
 同じ返事なんて何度もしたくない。そういう時に限って、一番来てほしくない奴がやってくる。
「もう飲んだからいらないって。ほら、次のせんぱいきてるからね」
「で、でも、いま走ったばかりで」
「走る前に飲んでるから。ほら、早く行かなきゃ間に合わないよ」
 川辺双葉。おしゃべりな幼なじみは、いつも茅乃と周りの間でうろちょろしてきた。しずかにしてくれるだけならよかったけど、双葉はもっとめんどくさい。
 双葉は茅乃が一人になった途端、首の根っこをくすぐるみたいな小声で話しかけてきた。それも、だれよりもうれしそうに、いじわるに笑いながら。
「さあて、今度はいつまでもつかなあ。茅乃のイメージもそろそろ」
「……うるさい」
 さいごまで聞いたらきっとキレる。
 だから、話より早く、茅乃はまた校庭のトラックにむかって走り出した。
「高森さんまじ速えぇ! シャトルランおわったばっかなのに体力凄くない?」
「いいなぁ、どうやったらせんぱいみたいに走れるんだろ」
 コウハイたちの声も聞こえないくらい、速ければいいのに。
 そう思いながら、茅乃はまた息がきれるまで走り込んだ。
 ふくらみ始めた胸の中で、心臓がどくんとはねた。
 お気に入りのヘアゴムも、たばねた前髪の上で何度もはねた。
 リズムに合わせて足を動かせば、何もかもふりきれる気がした。

 だけど、遠くでじっと茅乃を見つめていた、双葉の視線はふりきれなかった。


 部活が終わるのが六時前で、塾が始まるのが午前七時半。
 放課後は何かと忙しいのに、自分の家で夕食を取れたのは何ヶ月前のことだったか。
(いくらお母さん同士が友だちだからって、こんなに甘えていいのかなー)
 親しき仲にも、とはいうけど。でも、つきあいは幼稚園に上がる前から続いている。
(まあ、うちの家より落ち着くかも)
 毎日幼なじみの家に帰って、夕飯を食べて、塾に行く。
 それが、小学校三年生に上がってからいまだにずっと続いている、川辺双葉の日常だった。 
(おばさん、今日は何作ってくれたかな)
 体操服を入れた手もち袋をぶらぶらゆらして、今宵も勝手知ったる他人の家に戻ってきた。
「こんばんわー、お邪魔しまーす」
 一軒家の間取りだって、目をつぶっても歩いていけるほどおなじみだ。
 玄関でくつを脱ぎ、挨拶と共に騒がしいリビングに入ると、いつものお約束が待っていた。
「だから、いらないってば! 買ってもゼッッタイはかないから」
「洗濯するのはあんたじゃないでしょ。いらないって、あんたが毎晩汚すから」
 双葉が家の外で見てきた高森茅乃は、一言で言えば『かっこいい女の子』だった。
 六年生の男子より背も高くて、バスに乗ればオトナ料金も取られてしまう。陸上で絞ったスタイルの良さもあって、JCどころかJKにまちがえられたことも珍しくない。
 茅乃と双葉がいるクラスだとアニメのアイドルにハマる女子の方が多いけど、茅乃はスマホ片手に古着屋を巡ったり、ファッションスナップ系SNSでオシャレコーデ集めに凝っている。切れ長の大きな瞳に小さな唇、モデルみたいな整った小顔も、カワイイよりも美人系だ。
 そんな『男の子よりイケメンな、飯田三小の誇る陸上部の王子様』には、部活で見せた無愛想な塩対応も、実はそれがクールだと喜ぶ女子のファンもかなり多いらしい。
 だが、それも全部、家の外で見た時の話だ。
(クールっていうか、内弁慶なんだよなあ)
 リビングで繰り広げられていたのは、親と娘の怒号合戦。
 ラフな部屋着姿の茅乃が、走っていたときよりも真っ赤な顔で、母親に大声で叫んでいた。
「こんなの穿かせようとするから治らないんだ! これだってストレスだし!」
 茅乃は手にしたクッションを振り上げて、まるでゴキブリでも叩くように床に置かれたビニール袋を叩き、クッションで押し付けたまま中身を潰そうとしていた。それも凛とした立ち姿ではなく、ぺたりとお尻をつけた女の子座りで。立てば母親の手で無理やり着替えさせられる――そう警戒してるのか、上目遣いで顔をあげた情けない姿さえ気にする様子も見られない。
 もっとも怒り狂う娘に対して、母親の方は半ば呆れた顔で返事を返しているように見える。
「ストレスって、やめたら全部なくなる訳じゃないでしょ?
 ストレスを感じてるのはあんただけじゃないんだから」
 母親がはあ、とため息をついて、リビングの出口に立つ双葉に目を向ける。
 釣られて顔を向けた茅乃は、またぼっと火がついたように顔が真っ赤にさせていた。
「……っ!」
 茅乃はきっと唇を噛み、無言で双葉を睨みつけるとすぐに立ち上がる。そのまま入り口の双葉を押しのけるようにリビングから飛び出すと、側にある階段を乱暴に踏み鳴らしていった。
「またですか、茅乃の逆ギレ。おつかれさまっす」
「恥ずかしがるなら言わなきゃいいのにねぇ。あの子双葉ちゃんの前だと格好つけるから」
 仕方がない、と残された二人は互いに力なく笑いあう。
 台所から上がるいい匂いに空腹を誘われながら、双葉も茅乃の後を追った。


 双葉が二階の茅乃の部屋をあけると、中は明かりさえついてなかった。
 薄暗い空間を目を凝らしてのぞき込むと
(うわ、わかりやすっ)
 なりはオトナのくせに――なんて、図書館においてたむかしの本に書いてた通り。
 ベッドの上に、こんもりと丸く盛り上がった、毛布包みのおまんじゅうができていた。
 これ以上ないほどストレートないじけ方だ。子どもみたいで、ちょっと面白い。
「茅乃ー、めし。できたから行くよ」
「……あんたが消えてから食べる」
 ただ、本人的には精一杯の抗議なんだろう。むすっとした声が毛布の中から聞こえてくる。
 いつもローテンションな茅乃だけど、今日はいつも以上にしんどそうな声だった。
(目が見えないと、耳とか鼻とかよくなるんだっけ)
 双葉がうす暗い部屋を手探りで一歩二歩、そろりそろりと歩いていくと、不思議と見えないものが気になってしまう。耳に入る音、声ももちろんその一つだけど、
(おトイレ……っぽくない?)
 すえた匂いが鼻をつく。余計気になってすんすんと鼻を鳴らすと、より鮮明にかぎとれた。
 まるで、掃除の行き届かない公衆トイレか。それとも、保育園に置かれたおむつ入れか。
(これぞ茅乃のへや! って気がするなあ)
 変な安心感があって、ちょっとうれしい。それこそ幼稚園前から知ってる感覚だ。
 これぞ日常、と一人で満足しながら、双葉はベッドにできた毛布の山の隣に腰を下ろした。
「そやってすねんな。どーしよーもないもん、気にしてないって」
「部外者にわかるか」
 もちろんわからない。双葉に今わかるのは、お腹が空いて空いて仕方ないことだけだ。
 だから必然、出てくる話題も食べ物の話になる。
「冷えたご飯食べると体が冷えるらしいね。で、体が冷えたらさぁ」
 次の句が何を指すのか、茅乃だってわからないほど鈍い奴じゃないのは知っている。
 だから双葉も、次の行動に対して、どう反応するか用意ができた。
「人の部屋まで、わざわざ喧嘩売りに来て! あんたはいつも人の気持ちを――っ!」
 勢いよく毛布を脱ぎ捨てた茅乃は、今にも獲物に飛びかかろうとする豹みたいだった。目を怒りに輝かせ、むき出しの敵意で牙をむいて双葉に襲いかかろうと、ベッドに深く膝を突く。
 その瞬間、体勢が大きく崩れる。背中が丸くなるのを、見逃す双葉ではなかった。
「はいかくほー。ダイニングまで連行いたしまーす」
 まるくなった背中から、体を抱え込むように両腕でキャッチ。そのままするりとショートパンツの中に手を突っ込んだ。下着を抑えられたらさすがの猛獣も途端に慌てふためくらしい。
「話聞けよッ! やめっ、わかったっ、いくっ、行くからさぁっ!?」
 恥じらう茅乃を連れて意気揚々と双葉にリビングに戻ると、食卓に暖かいクリームシチューとサラダ――そして、朗らかに笑う茅乃の母が、新聞記事のスクラップを片手に待っていた。

 食事はみんなで楽しく過ごすに限る。
 他人ながら、双葉も茅乃の母親も、意見の一致するところだった。
「この前の記事ですよね。茅乃ってこーいうのは残してないとばかり思ってました」
「だから家族が取っとく羽目になっちゃうのよねぇ。中々自慢できる機会もないから、双葉ちゃんにばかり話しちゃってるけど」
「こちらこそです、茅乃のお母さんが呼んでくれなきゃ今日もぼっち夕飯でしたもん」
 美味しいご飯と楽しい会話が、忙しい夜にも彩りを添える。
 ただし、そんな和やかなムードも、長くは続いてくれなかった。
「……一人で食ってればいいだろ」
 ぽつりと呟く茅乃の声に、双方向から怪訝な視線が向けられる。
「はあ……。ほんと、双葉ちゃんには甘えるんだから」
「はあ? 別に甘えてなんか……」
「それがギャップなんですって。茅乃、学校じゃクールな一匹狼キャラですし」
 親子喧嘩より食事に夢中な双葉は、黙々とシチューを口に運びながら幼なじみの日常エピソードをとうとうと語る。途端に、母娘の表情が一変した。
「い、いっぴきおおかみ……。んふっ、ご、ごめんなさいねっ、食事中に」
 口元を抑えて含み笑いを堪える母に対して、娘の表情がまた重く沈んで爆発する。
「……ごちそうさまでした!!」
 茅乃はシチューを残さずかきこむと、再び自室に足を鳴らして逃げ帰ってしまった。
 母親の方といえば、笑いに震えながら自分の娘を指差している。
「あ、ああいう所も?」
「ですね。それも込みですから」
 クール気取りの娘に対して、愉快な親。以外とバランスは取れているのかも知れない。
 それでいて、彼女なりに気を使っていない訳でもないらしい。
「あ、あの子着替えまた忘れてるわ。ほんと、何度言っても聞かないんだから」
「わたし持って上がりますよ。渡すだけ渡す、でよかったですよね」
 潰れたビニール袋に気づき、慌てて持って行こうとした母親を止めたのは双葉だった。
 塾に行く時間は迫っているけど、また親子喧嘩されてはかなわない。
「汚れて困るのはあの子も同じだから。もうしょうがないわ」
 笑う茅乃の母親は、茅乃に呆れているよりも、むしろ許しているようにも見えた。


 別に気にしないのに。でも、他人は気にするものがある。
 それくらい双葉も知ってる。双葉も知ってるけど、あえて言ってた。
(別に、ちゃんと病院行ってるなら、それでいいのに)
 食後のちょっとした運動に階段往復。
 双葉は茅乃の荷物を抱えて、再びまっくらな茅乃のお部屋にやってきた。
「茅乃ー、忘れ物。これ、ちゃんと穿き替えないとまた明日も大失敗して」
「触るなっ!! で、出て行けっ、は、はやく出て行けよっ!!」
 茅乃はベッドの上で毛布からちょこんと顔を出して、まるで番犬みたいに吠えていた。
 でも番犬ほどは怖くない。むしろ深夜アニメのダメニートな妹が涙目状態、みたいな絵だ。
「おーこわいこわい。別にいいじゃん、一つくらい欠点あったって、愛嬌のうち――」
「それが一番致命的なんじゃない! こんなの知れたら、人生終わるからっ……!」
 双葉が一言声かけしたら、まるで十は返さんと言わんばかりの茅乃マシンガンが炸裂する。
 もっとも強がりは言葉だけで、声や調子は、割とぐずぐずで、弱々しいヘタレボイスだ。
(おもいつめてるなー。うーん……)
 本気で悩むならそれ以上は踏み込めない。抱えた荷物もその場で床に置くしかなかった。
「……そうか。終わるのは、ツラいな」
 かんたんにかけられる言葉もなくて、双葉も精一杯言葉をえらんでみたけれど。
「そうやって、いつも他人事で! そんな知った口で人の秘密に土足で踏みこんで――!」
 茅乃の方は、それで怒りがあおられたらしい。
 なんだか、余計に火に油を注ぐ羽目になってしまった。
 弱さをカバーするために、強くなる。それなら、双葉にもわかる。わかるけど。
(弱さをなかったことにしたいって、しょーじきムリだと思うんだけどなー……) 
 スポーツ万能な凛々しいクラスの王子様系女子――なんて、さすがに自称はしてないけど。
 なまじ『学校で人気者の自分』って気持ちがあるのか、双葉の態度はとても頑固だった。
 それも双葉が持ってきたビニール袋を見た途端、茅乃はどんどんいじけるばかりで。
「こんなの、普通穿かないでしょ!? 赤ちゃんじゃないんだよ、私、もう五年生で!」
「うーん……。でも、毎晩おねしょしちゃうんじゃ、ベッドもぬれるししかたないんじゃ……」
 言った直後、しまったと口を塞いだけど、あとの祭り。
「お、おむつなんてっ、絶対穿かないからっ!! 赤ちゃんいうなっ、ばかああああっ!!」
 双葉の発言は、あっという間に茅乃の顔をやかんみたいに真っ赤に沸騰させてしまった。
 茅乃も直視するのも恥ずかしいのか、枕に顔を押し付けて、毛布の中に逃げ込んでゆく。
(……別に、「赤ちゃん」なんて、言ってないのに)
 とはいえ、双葉がビニール袋の中を開けば、パッケージはでかでかとそう主張していた。
 『ビックより大きい』『朝までぐっすり』『おしっこが言える、たっち期の赤ちゃんに』
 そんなカラフルなロゴデザインの踊るパッケージ写真を飾るのは、おむつ丸出しでニコニコと笑う、一歳児くらいの女の子の赤ちゃん。
 そんな紙おむつを毎晩寝る前に穿くように言われるなんて、大人びた格好が大好きの茅乃にとっての最悪のコーデだったんだろう。
「まあ、人生おわる、か。うん。おわるなら、しかたないよね……」
 毎晩おねしょで、毎朝ぬれたおやすみパンツ――どう見てもおむつ、で目がさめるなんて。
(最悪なのは、わかるけど)
 勉強も運動も自分で努力して身につけていくものなんだろう。茅乃は、そうしてきた。
 だからこそ、部活中にいっぱい水を飲む後輩たちをよそに、どれだけ水をガマンしても。
 寝る時間も決めて、おトイレガマンの練習もして、恥ずかしいおねしょチェックシートも壁に貼って、毎朝チェックつづけているのに。
(バツばっかり、だもんなあ……)
 それでもおねしょは治らない、なんてどんな気持ちなんだろう。
 おねしょシートからもあふれたおしっこのせいで、茅乃のおふとんも何回も真っ黄色の世界地図を描いたあとが残っている。あまりにおむつを穿かないから、一度茅乃のおばさんがキレたときは、茅乃は外におねしょふとんを干さないでと、そばにいた双葉も気にしないくらい、鼻水垂らしてわんわん泣き叫んだこともあったくらいだ。
(ずーっと、赤ちゃんのままなんだよ、とか。赤ちゃんでいなさい、って言われてる気分?)
 お布団をぬらしてもオムツをイヤがる茅乃の気持ちは、そんなところだろうか?
 双葉も、ひどいショックなんだろう、と自分に言い聞かせてきた。
 それでもやっぱり、それで泣けてしまうほど、茅乃の辛さを再現できそうにない。
「……わかってあげられたら、いいのにな」
 そんなことを想像しながら。双葉も部屋をそっと出ると、リズムよく階段を下りていった。


「ぐすっ……うぅ、すんっ、えぅっ……」
 布団中で泣けば泣くほど、こぼした涙や声の熱がこもって苦しくなる。
「はっ……あっ、あぁ……」
 クロールの息つぎみたいに、茅乃は布団から涙まみれの顔を出して、息を吸った。
 ついでに、ビビりながら目を開けてみる。部屋には、もうだれもいなかった。
(ほんっと、ずうずうしい……ごはん食べるし、人のこと、バカにするし……!)
 双葉を思い出すと、茅乃にもまたイライラがもどってくる。
 その上、重たい気分で頭が下がったせいで、床に置かれた紙おむつ袋が見えてしまった。
「うあ゛ああっ、もう!」
 茅乃は布団から這い出て、そのまま袋にサッカーのキックをいれる。つぶれたパッケージは床に転がると、口の開いていたオムツ袋から数枚の中身が床の上を滑ってこぼれてしまった。
「さいっっあくっ、こんなの、ありえん、まじないから。ないって……まじで……」
 頭をぐしゃぐしゃかきながら、またベッドの上に前から倒れ、そのまま沈む。
 紙おむつなんて、カサカサ這いよるゴキブリに負けないほどの茅乃にとってのNGだった。
(だって……お子さまよりも、ガキっぽいのに……。ずっと赤ちゃんなんて……そんなの、ヤダ)
 茅乃が服に気を使い出したのは、去年四年生に上がってからのことだ。
 それまでは、夜の格好はママに言われた通りの格好だった。
(うえ……思い出すと、すげーうつなんですけど……)
 かわいいかわいいと言われるがままに着せられた、白地にさくらんぼの柄が踊る丸襟フリル付きの子供用パジャマ。股の間はオムツからもれたおねしょでやっぱり黄色いシミができて、何度漂白してもうす黄色の淡くてちょっと臭う恥ずかしいシミがしっかりついている。
(ずっと子どものかっこしてたら、子どもから成長しないだけじゃん……)
 おねしょでオムツが重たくなると、毎朝オムツからおしっこをこぼさないようにおお股になって歩くのが大変だった。勝手に脱いだらダメなのだ。ママにする朝のごあいさつは一つ。
『お……お、ねしょの、チェック……おねがい……し、しまっ……』
『いまはかり持ってくるから、ズボン脱いで待っててねー』
 おっかなびっくり、パジャマズボンを片足ずつ脱いで、たぷたぷになった冷たい紙オムツの感触に泣きそうになりながら待っているのは、思い出すだけでも死にたくなった。
(細いからいいとか、そんなんじゃない……だって、赤ちゃんのオムツでも……ま、間に合わないこと、いっぱいあったのに……!)
 茅乃のおねしょ癖は、生まれた時からずっと続く重症例――と、お医者さんが言っていた。重症の名前の通り、一度にするおねしょは最低二回以上。寝入り直後、寝てる間、起きる前。それも一度の量が子供用おむつの限界ギリギリまで漏らすことも珍しくないから、オムツがおねしょを受け止めてくれる役目を果たしてくれないことだって結構あったのだ。
『ね、ねえ、ままぁ……は、はやく、オムツとってよっ……!』
『はいはい、じっとしててねー。いま楽になるからねー』
 ママはお菓子作り用みたいな小さな機械のはかりを持って、茅乃のおむつをゆっくりとはがしてくれた。『寝たまま外そうか?』なんて言われたけど、寝たままなんて赤ちゃんっぽいし次のオムツまで当てられそうだから絶対拒否ったから、おねしょでオムツを濡らした朝の茅乃は、いつも立ったままママの手でパンツオムツの両サイドをビリビリと破ってもらっていた。
 脱がされたオムツはすぐに測りにかけられて、一晩の夜尿量がはっきり見える。
『ジュース一本分もしてる、なんて……も、もう、わたし、水飲まないからっ』
『制限以上我慢しなくていいの! そんなこと言ったら熱中症に……』
『脱水も熱中もいらない、もう……むりだからぁ……』
 情けないにもほどがある。
 もちろん、自分で着替えくらいやったことだってある。あったのだ。でも
(お、おねしょオムツ……ボトッて落ちたの……まじサイアクだったしっ……)
 自分のオムツなんて汚いから、指先でつまむようにオムツ外ししたのがいけなかった。
片側を外したら、おしっこの重さでオムツが傾いて、ギャザーでなんとかせき止めてた朝一のおねしょが床にこぼれそうになったのだ。
『だっ、だめっ……ひっ!? やっ、きたなっ……!』
 慌てて股の間に手を入れてオムツを支えたけど、こぼれたおねしょが手のひらを濡らしたせいで、茅乃は情けない悲鳴まで上げてしまった。
(あの時、双葉がこなくてよかった……)
 大人びた格好の大好きな自分が、まだおねしょで毎日ぐずぐず泣くようなお子ちゃまなんだって、たとえ幼なじみにだって知られたくないことだ。それも、自分のおねしょで手がぬれたのにおどろいて、あわてておねしょオムツから手を放したら――
「あっ、あっあっあああっ!?」
 支えきれなかったもう片側のギャザーもビリビリとやぶれていき、黄色い湖を浮かべていた茅乃のオネショおむつは、勢いよく床にぼとり、と墜落してしまったのだ。
 おねしょまみれの股の間から、おなかに残っていたおしっこの雫がぽたぽたと床に、おむつに、不恰好にこぼれていく。それなのに、ショックで固まった茅乃といえば
『え……えうっ……ぐずっ、ひっ、ひぐっ……。ふぇっ……うええっ……!』
 自分より勉強も運動もできない子だって、布のパンツで毎晩ちゃんと一人で寝られるのに。
『どうしたの!? 茅乃、あ、オムツ、またこぼしちゃって! だからママがやるって――』
『ママなんてっ、うええっ、だいっぎらいっっ!! もうやだっ、オムツやだぁあ゛っ!!』
 自分は、まだ、赤ちゃんみたいに、紙オムツもとれないなんて――

 ――思い出のフラッシュバックは、いつも死にたい気持ちであふれている。
 茅乃は、特にそうだった。
(ありえないから。ほんっとに。お母さんも双葉も、私のことなんて、考えてないし……)
 布団から出て鏡の前に立った今の自分の姿は、すくなくともおねしょとはかけ離れていた。
 愛用のパジャマはフリース素材、下のパンツは紺色のややスキニーなすらっとしたフォルムで、上はチュニック丈の長袖トップス、グレー地にロゴの入ったラフなスタイルだ。
 元々体は大きいから、ちょっと気を使うだけで小学生っぽくない格好なんて楽勝だった。
 でも、いくら茅乃が頑張っても、夜の下着だけは思い通りにいかない。
(パジャマの中だけおむつなんて……あり得ない。死ぬ。自分が自分を一番殺したくなる)
 今穿いてるのだってし●むらや●オンに売ってる、安い小学生用のキャラモノショーツだ。どうせおねしょで汚れるんだから思いっきり子供っぽいのを穿いておけば自分だってバレないと思って、汚すことを前提に穿いている。
(これだって、双葉に見られたら死ぬんだろうな、私……)
 昔を思い出すから落ち込むのか、落ち込むから昔を思い出すのか。堂々巡りは終わらない。
 蘇るのはつい最近の記憶。『おねしょしてもオムツなんて穿かない!!』と決めた直後だ。
 自分で決めて、宣言した。それなのに朝起きたらオムツを穿かされていて、当然おねしょでオムツがぬれた朝を迎えてしまった。犯人なんて一人しかいないから、茅乃もすぐ抗議した。
『なんで勝手に穿かせたの!? こんなのママが穿かせるからおねしょも治らないのに!?』
『順番がちがうでしょ! あなたが先におねしょするからオムツが必要になって――』
(……言わないでって、言ったのに)
 もう、その名前も聞きたくない。自分で言うのはまだ我慢できても、他人の口から聞くと、両目からぶわっと涙が流れてしまう。
『ひぐっ、お、オムツってっい゛ゔな゛あ゛っ!! わだじのごとっ、ばかにしてっ!!』
 おもらしお知らせサインが浮かんだおねしょオムツのまま、ママに文句を言いまくっていた最中、茅乃はふと誰かの視線を感じてしまった。そして、思わず振り向けば。
『……あ』
 川辺双葉が、リビング前の入り口で、呆然と立っていたのだ。
 よりにもよって、おねしょオムツで泣き叫ぶ、一番情けない茅乃を見られていたのだ。
(……絶対、私をバカにしてる。そうでもなけりゃわざわざオムツなんて持ってこない)
 そう思うと、怒りがふつふつと湧いてくる。もう、言い返さないと気が済まない。
(絶対クギささないと! あいつのせいで、私のヒミツ、バレたら死ぬから!!)
 火がついたように思い立って、茅乃がドタドタと階段を踏み鳴らし、リビングに戻ると。
「あら、双葉ちゃんならもう帰ったわよ」
「え……?」
 ママは別に茅乃に怒った様子も見せず、テレビを見ながら空返事の真っ最中。
 伝えられていたらしい伝言だけを茅乃に伝えると、またすぐテレビに夢中になった。
「『茅乃の気持ち、わかってやれなくて、ごめん』ですって」
 双葉が言いそうな、物足りない返事。
 嘘じゃないと、はっきり思えたけど。
「……なんだよ、それ」
 何かが変わるわけじゃない『ごめんなさい』に宙吊りにされた茅乃は、黙ってふて寝するしかなかった。


 茅乃は、夜に夢は見なかった。その代わり、毎晩夜3時頃、お尻から背中まで、ぐっしょりと濡れた感触で一度目をさます。
「…………うぅ」
 ねぼけたまま、布団のうえに、おむつの代わりに敷いていたキルト製おねしょシートをずりずりとベッドから引き下ろすのと同時に、ごろりと床に転がり落ちる。
 眠い目をこすりズボンとパンツを脱ぎ、濡れた服と棚から取り出した新しい着替えを取り出して、風呂場へと向かった。
 ここまでの動作はもう寝ぼけてたって勝手にできた。
 茅乃だって、伊達に年齢=おねしょ歴は重ねてない。
「うぅ……のど、かわいた……」
 部活動で意地をはったせいか、大量に流れた夜尿水分もあいまって喉の渇きが止まらない。
 でも、水を飲むわけにはいかないと、シャワーを浴びながら唇を潤すだけで済ませて、着替えを終えたらまた自室へと戻っていく。そのまま冷えた布団にもぐりこみ、二回目と三回目のおねしょはぐっすりと寝たまま過ごす――それがいつものパターンだった。
 それが崩れたのは、目を閉じたまま部屋に足を踏み入れた時の、冷たい違和感のせい。

――ぐじゅっ、ぶじゅるぅぅっ

「ん、うぅっ――ふぇっ!?」
 体重をかけた足の裏が、ぐずぐずと生温い温度に濡れていく。
 思わず目を開くと、自分の足があるはずがないものをしっかりと踏んでいた。
「な、なんでっ!? さっき脱衣所の籠に全部入れ……忘れ……?」
 記憶をたぐると、籠に入れたのはパンツとズボン――だけ。
 布団に敷いたおねしょシートは、部屋にずっとおいたままだった。
「もう、また二度手間ぁ――あらっ?」
 失望と睡魔で思わず千鳥足になった途端、今度は逆の足に何かが当たった。
 柔らかくて冷たいすべすべのビニール製の袋のような、柔らかい紙製の布地のような。
 目を開けてみると、カーテンを閉めた窓辺からは、青白い月の光が届いていた。
 その薄明に照らされた形に。
「あっ……う、うぅっ……。さいってい……」
 強烈な羞恥心のせいで、茅乃の眠気も一気にさめてしまった。
 踏んでいたのは紙オムツ。絶対穿かないと決めていた紙オムツ。
(こんな時まで、双葉は私のことを……!)
 いつものように、怒ることができると、思っていたら。

――気持ち、わかってやれなくて、ごめん

「う、うぅ……」
 茅乃に不意に蘇ったのは、親に預けられた伝言だった。
(心配とか……なにそれ、格好だけなら誰でも……別に……)
 片足は濡れたおねしょシートの感触をまだ覚えていた。紙オムツに触れた足もまた同様に。
 一度動きが止まった隙に、睡魔がまた茅乃の頭に回っていく。
(寝ちゃえ、もう……別に、こんなのなんか……別に……)
 自分に言い聞かせる。言い聞かせたせいで、逆に意識するのは別の意見。
(心配、されてるのに……気づかないのは、私だけなのかな……)
 まぶたを閉じてもベッドには戻れず、立ったままためらう内に。
「うっ……! う、うぅ……」
 のどの渇きが、身体に水を求めてきた。
 睡眠欲にも負けない生理欲求が、茅乃の背中を強く押してゆく。
 気付いたら、部屋から台所に走っていた。
「もうっ……染みるぅ……」
 冷蔵庫を開け冷やしたミネラルウォーターを、これでもかと言わんばかりに胃に流し込む。
 飲むと決めたら好きなだけ。それができるのは、ヤケみたいな覚悟のおかげだった。
「も、もうっ……これでいいんでしょっ、これでっ!」
 茅乃は部屋に戻ると、すぐに下着ごとパンツを脱いだ。目をつぶったまま手に取ったのは、床に置いたままの紙オムツ。たっぷり水を飲めるのもこのお陰――決めたのは止むに止まれぬ妥協の結果だった。
「もう、いいや……」
 最後の言葉を、投げやりに変えて。茅乃は、今度こそ倒れこむようにベッドに沈んだ。
 ベッドの中で、オムツを両足に通し終えると、意識もふっと闇に落ちていった。
 

 騒がしいのが当たり前だと、静かな方が不思議と慣れないものらしい。
 双葉は前日の夕食のお礼を兼ねて、毎朝家まで行って茅乃との登校を誘っている。
 だが、今朝のリビングはいつもと明らかに状況が異なっていた。
「なんだ、一人で上手に穿けたんじゃない。これでもうおねしょでふとんも汚れず済むねぇ」
「べ、別にこれくらい、ほめられることじゃないでしょ……ほ、ほら、オムツ測ってよっ」
 おねしょオムツで恥じらう娘と、それをほめる母親のツーショット。
 フェティッシュな絵に思わず、本音が漏れてしまった。
「なんだ、やっぱりかわいいじゃん、茅乃。オムツ、似合ってるよ」
「う、うっ、うるさいよっ!? オムツが似合うとか、嬉しくないし!!」
「でも、自分で穿けたんでしょ?」
「……う、うんっ」
「よかったねぇ、これで自由にすきなだけおねしょが……」
「しないから!! 
「でも、お水いっぱい飲めるよ?」
「そ、それは飲むけどっ……」
 それから毎朝、双葉が『茅乃のおねしょオムツがかわいい』を連呼したせいだろうか。
 茅乃は、大分丸くなった。特に、部活動でも。
「センパイ、これ! 走ったあとは、飲んでください!」
「う、うんっ……ちゃんと飲む……よっ」
「ありがとうございます!」
 少し頬を赤らめて水を飲む様は、クールなセンパイが見せる新たな一面として後輩人気を大いに増やした。
 ただ、茅乃の顔が、夜の失敗に恥じらう姿だとは、結局誰にも知られなかったようだった。
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