FC2ブログ
Entry
Archive
Category
Link
RSS Feed
Profile

伏屋のづ

Author:伏屋のづ
Mail:nuderiff@gmail.com

書き殴った【おむつ・おもらしフェチ】系妄想置いてます
だいたい月一でもえないごみがふえるよ
文章も構成も壊滅的なんで重箱の隅突きなど歓迎中
萌えについて模索中なので作風も質もブレまくるよ

2016/01
>あいかわらずにほんご書けてねえ
>よかったら好きなシチュ語ってもらえるとうれしいです
@ごみばこ

Access Counter
Mailform
リクエスト参考にします
(書けたら書くかも)

名前:
メール:
件名:
本文:

Comment
TrackBack

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

trash #031

■私たちの絶望


 爽やかな日が差す育児室に、軽やかな音色で『お漏らしお知らせ用アラーム』が鳴り響く。はるかぜ園の先生は、今日も手の掛かる”大きな赤ちゃん”たちのお世話で大忙しだ。恥ずかしがり屋さんの多い保育園だから、今日も至る所でぐずる声が上がっていた。
 
「何でもない! 早く消えてよ! 違うのっ、『おむちゅにちーなんてナイナイ』だからあっ!」
「りゆちゃんはいい子のおねえちゃんだから、床にごろんっておむちゅ替えのポーズできるよね?
 それともお……19さいにもなって、赤ちゃんみたくイヤイヤしちゃいまちゅかあ?」

 先月19さいになったばかりの莉優は、すその短いチャイルドスモックの上にうさぎの涎掛けがお気に入りにのオシャレさんだ。スモックの下に穿いているのも、涎掛けとおそろいのうさぎさん柄のパンツおむつ。大好きな先生に見られるのが恥ずかしくって真っ赤なお顔だけお気に入りの絵本で隠しているが、水色のスモックのすそからお尻のバックプリントは丸見えになっている。

「やめてよそんな事言うのっ! 私はもう『年少さんになった』んだから、先生だって『ハイハイだって余裕で出来るし、おねしょも毎晩3回してる』の知って――ち、ちがう、そうじゃなくて! 『りゆ、ちーでたってゆーの、いやいや』――って、もうやだ、なんで言えないのっ!」

 莉優がこの保育園にきてからまだ2ヶ月。おぎょうぎのいい良い子になれるまで、まだ時間がかかりそうだ。そうやって上手に”大きな赤ちゃん言葉”が言えない事にぐずる莉優ちゃんの頭を先生は優しくよしよしと慰めてゆく。甘えん坊さんのお世話も手慣れたものである。

「うんうん、先生もちゃんとわかってるよ。おむちゅグショグショで気持ち悪かったんだよね?」
「そんな訳ないからっ。私、『お……おむつにチー』なんか『ナイナイ』して……あうぅっ……!」

 そうして、食べ残しや涙の痕で汚れたスモック姿の162㎝の元女子大学生おむつ園児は、とぼとぼと14才の女子中学生兼保育士先生に手を引かれて教室の隅へ連れていかれた。先生のおむつチェックでお尻を撫でられても、観念したのか、怯えきった莉優はなすがまま。
 沢山のお友だちが寝かされたおむつ替えコーナーは、今朝もお漏らしっ子で満員御礼だった。

「りゆちゃんの一時間のお漏らし回数もそろそろ1歳児水準を切るかな。この調子なら、すぐにスモックから可愛い赤ちゃんロンパースにお着替えできるね」
「そっ、そんな訳ないでしょっ、馬鹿じゃないの! 私、『おむちゅのおねえちゃん』だからっ!」

 支えられないと一人でおむつ替えマットに仰向けに寝られない癖に、先生の言葉にムキになった莉優は必死に『おむちゅのおねえちゃん』をアピールし始める。お友だちの前では恥ずかしそうに抑えていたスモックのすそを、おへそが見えるほど大きくめくりあげていった。
 穿かせた時はキレイな白地だった紙おむつは、クッキリと鮮やかに浮かび上がった『おもらしお知らせサイン』を見るまでもなく、フロントプリントの裏地まで真っ黄色に染まっていた。
 おしっこセンサーのつけられたクロッチ部分も、たっぷりのお漏らしで今にもずり落ちそうなほど、たぷんたぷんに膨らんでいる。両手に握ったすそをぎゅっと押さえた胸元で、スモックを持ち上げていた豊かな双丘に負けない程のボリュームだ。

「大丈夫、わかってる。だからりゆちゃんは、ここで『おむつの赤ちゃん』からやり直すんだよね」
「そっ、そんなこと、しないっ……。私は、『おむつの赤ちゃん』で――ちがう……そうじゃない、『おむつ』、『お、おむちゅっ』……えぐっ、ひっぐっ……なんでっ、赤ちゃん言葉、もうやだあっ!」

 先生は一向にぐずるのを止まない莉優をおむつ替えマットの上に寝かせ、枕元にある籠の中から新しい紙おむつを取り出した。今まで莉優が穿いていた紙おむつは伸縮性には優れるが吸収量は劣る、動き回っても漏れないサイドギャザーのしっかりしたよちよち歩き期の赤ちゃん向けのパンツおむつと同じ――『デザイン』だった。先生が持ってきた新しいおむつもハイハイ期乳児向けのと同じ柄で、最近『ハイハイ中のおむつ替え』CMが流れたばかりの製品だ。
 それは、莉優のような”大きな赤ちゃん”たちにとっても、特別な意味を持っていた。
 例えば、一向に”イヤイヤ”をやめようとしないだだっ子には先生の一言が強烈に作用する。

「りゆちゃん、いつまでもそんなこと言うなら、教室のテレビで”おむつのCM”流しちゃうよお?」
「ひっ!?」

 それはただ莉優一人に向けられた言葉なのに。

『うああ、あぶぅっ……』『いいこになる、いいこになるからぁっ!』『ふええええっ……!』

 隣に並んだおむつ替え中の”大きな赤ちゃん”から、教室内でお尻を着けて座っていた他の園児たちまで一斉に、悲しい泣き声のすすり泣きが始まってしまう程である。

『”大きな赤ちゃん”用新発売! 本物の赤ちゃんと同じデザインで可愛く決めちゃえ!』――まるでティーンズファッション誌に少女趣味を混ぜたかのような世界観で展開されたCMでは、羞恥心に悶えた中高生らしき思春期の少女たちが、今の莉優より恥ずかしい、裸におむつ、涎掛けだけの姿で赤ん坊とハイハイ競走をさせられていた。愛らしいベビー服を着た赤ん坊にすぐに追い越され、こてんと転がりお尻のバックプリントを見せた所で、医薬品CMでお馴染みの『ピンポン!』と警告アナウンスが鳴る。表示された無機質な使用上の注意に並んだ正式名称は、『退行児童用補育紙オムツ』。はるかぜ園に通うような”大きな赤ちゃん”園児の為のサイズで作られた、介護や育児用ではない退行児用赤ちゃんおむつである事を示している。

 それは、二度と大人になれない乳幼児期を呪う、憐れな少女の烙印(スティグマ)だった。

「い、いやだっ……私は、りゆは……りーちゃは。赤ちゃんなんか、なりたくないよおっ……!」

 莉優の瞳もまた周りの園児たちの用に、うるうると涙の海が満ちた。濡らしてから時間が経って冷たくなっていた紙おむつの中にも、また暖かい奔流がせせらぎを奏でて渦巻いてゆく。
 縁など無いと無邪気に考えていた頃に一度はふざけてネタにしていた特殊な紙おむつCMは、退行シンドローム当事者にとって一生逃れられない残酷な事実を突き付け続けていた。
 現実から目を逸らす事でしか日々刻々と退行していく患者にとって、幼児化の事実自体が恥辱であり毒である。まるでポルノまがいな笑いものである退行児用紙オムツCMは、余りに堪え難い光景だった。迂闊に目に入れてしまったせいで、まだ無自覚な初期症状だった17才の少女が一気に3歳児水準の精神行動状態にまで退行したケースもある――と、にわかに噂される程の激しいショックを与えてしまう。見れば必ず退行児のおむつはぐっしょりと濡れて、莉優のような特に臆病な”大きな赤ちゃん”なら『CM』の単語を聞くだけで漏らしてしまう。

「赤ちゃんなんかじゃないっ! 『せんせぇっ、はやくりーちゃのお漏らしおむつかえてよおっ!!』」
「ふふっ、素直なりゆちゃんはやっぱり良い子だねぇ。『はやく、はやくっ、りーちゃの大好きな赤ちゃんおむちゅ、せんせぇ替えてくだちゃい』って教えてくれるんだから」
「だ、だって……おむつなんか――『はきたいもん』。私、19歳なのっ! 『ほいくえんのおねえちゃん』だからっ! 『ほいくえんのおねえちゃんは、おむつはかなきゃだめ』なんだからっっ!!」

 心を苛む矛盾に怯え、ただ逃避行動ばかりを覚えた退行シンドローム患者の行動習癖はただ無様の一言に尽きる。受け入れ難い葛藤からの解放を求めた結果、自ら両脚を抱えておむつ替えをせがむ、まるで赤ん坊になることを望むかのような幼児化痴態を晒してゆくのだ。虚勢ばかり空回れば、固執してきた年相応の口調もいとも容易く崩れていく。吐いた言葉の拙さに煽られ、手放すまいと掴んでいた精神まで引き摺られ、不可逆の退行を起こしてゆく。
 そこには19歳の少女としての理性も感情も、尊厳さえも残ってはいなかった。在るのはただ大きな身体を持て余した、保護者のお世話を待つだけの”大きな赤ん坊”だけ。それも幼い保育士にビデオカメラのレンズを向けられても、躾けられた媚びたポーズ――濡れたおむつの上で腰を上げ、無毛の幼女性器を晒し、ぽろぽろと大粒の涙を零して泣き喚き続けていた。

「はぁい、それじゃあ莉優ちゃん、今日のおもらち報告も、可愛くポーズでおしえてねぇ」
「ぱしゃぱしゃ(カメラ)やめてぇっ! おもらしおむつ、見たらめー(ダメ)って……なんでぇっ……『りーちゃ、やだっていったのに……せんせぇのいじわるっ。ひっ、ぐすっ、ふええぇんっ……!』」
「うふふっ、莉優ちゃん、お姉ちゃんなのにおむちゅなんて恥ずかしいんだあ。まだはだかんぼの方がお姉ちゃんぽくない? おもらしおむちゅナイナイして、はだかんぼになっちゃおうか?」

 混乱しきった頭では、誘導された事にも気づけないのか。カメラに繋がったケーブルは教室備え付けのパソコンと繋がっており、リアルタイムで退行症患者の痴態を実況ウェブ生放送で全世界に公開していても、『はだかんぼ』が恥ずかしい事だとおぼろげな記憶だけが、莉優を更に恥ずかしくさせていった。

「せんせぇごめんなしゃいっ、おむちゅはかせてっ、はだかんぼいやぁっ! りーちゃにおむちゅっ、あかちゃんおむちゅ、はかせてよおっ――!」

 水面に浮かぶラッコの態勢で、莉優は『思春期用こども紙おむつ(17歳~20歳用)』のパッケージも見えるようにしっかり抱え、カメラの向こうにいる変態性癖者に許しを請うように、新しいおむつを懇願した。”大きな赤ん坊”である莉優に向けられた揶揄のコメントが画面に雪崩れ、放送は一面欲望色の白濁で全てが塗り潰されてゆく。情けない姿を覆い隠された救いは、皮肉にも画面を見る事のない莉優には何の希望さえくれなかった。

「うえええんっ……うああああんっ……!」

 そうしてまた、莉優は顔を涙と鼻水で汚し、当てられたばかりの紙おむつをまた恐怖によるお漏らしで濡らしてゆく。堪える事だけが、退行病に約束された完全なる幼児化に到る道のりを長引かせてくれる――2ヶ月前、そう信じてはるかぜ園の門を潜った少女は、今や幼女にも劣る赤ん坊寸前まで、重度失禁癖とおむつ依存の二重下降螺旋を描き続けていた。



 『いい子にしてなきゃはるかぜ園に連れてっちゃうよ』――退行病が流行るにつれ、患者の見せた醜態と末路が子どもを叱る常套句となった。謎めく病因は様々な仮説や憶測を呼び、テレビやネット等のメディアに於いても、ウイルス、免疫や神経系異常といった専門家らしい科学的仮説からワクチンの副作用、腸内環境異常と商魂逞しい健康カルトの風説、果ては『我慢を教えられなかった躾けの劣化が少年少女の精神を幼稚化させている』という類の精神論まで飛び交っている。
 だが誰が何を信じたか、選択結果は既に叱り文句に現れていた。
 患者の問題行動は、今も非当事者の余裕さえ奪い続けている。

「あのね、さえちゃん。ムリしてお勉強しても、もっと酷くなるだけで――」
「いい加減にしてよッ! 『たしざん・ひきざん』なんて続けてももっとバカになるばかりじゃないっ!! リハビリだったらもっと難しい問題出してって言ったでしょ!」

 27歳の年齢超過特別保護児童――佐英の場合、入園後も一向に感情を爆発させた悪癖が治る気配も無かった。用意されたアニメ柄の机に向かい、動物や果物の並んだ『かずあそびのえほん』相手に指折り数えて1足す1をがんばって数えても、2分も経たない内に『わたしはかしこい』と真っ赤な顔で騒ぎ出してしまう。
 文句を言いながらも抱いた絵本を手放そうともしないまま、今日も佐英は困り顔の先生の言葉を遮り、真っ赤な顔で怒鳴り散らす。銀縁眼鏡の奥で煌めく切れ長の瞳が、保育園を模したひまわり園の中でも未だ衰えぬ彼女の知性信奉と神経質な気性をより険しく表している。だが、おでこが見えるように前髪を留めたヘアピンはカワイイ小熊のマスコット付きで、お昼のミルクをこぼしたシミ付きスモックの裾から黄色く染まったもこもこの紙オムツも丸見えで、大人の口調で吠えるほど、見た目の幼稚さを滑稽に強調させている。

「ふえっ、ひぐっ……せんせぇ、ひっ、ちっちでたぁ……」
「おっきな声やめてぇ! もうやだっ、怖いのやだあっ……あっあっ、しっこでるっ、おむつにしっこ、やらああぁっ……!」

 過大なストレスは退行病を悪化させる大きな要因の一つだ。佐英が怒号を上げる度、周りで遊んでいた《園児》も怯え、大号泣の輪唱へ波及した。年の頃中学生から大学生といった身体だけなら立派なオトナだった少女たちは世話を焼く保育士たちに順序よく床に寝かされ、反抗心の強い莉優でさえこの時ばかりは自ら膝を抱えて『オムツ替えのおねだり』のポーズを取った。恐怖に襲われ身を震わせた少女たちは、藁をも掴む気持ちで他人に必死にしがみつく。

「ほらみくちゃん、オムツしててよかったでしょ? 怖くてちっち出ちゃう子は、ちゃんと赤ちゃんのオムツしてようねえ」
「ちがうぅ……! 怖いからじゃないっ、したかったのっ、怖くておもらしなんてっ、ひぐっ、ふぇっ……うあああんっ……!」

 平常心では自分でパンツ型オムツを穿ける園児でも、パニックに陥った時には、まるで本物の赤子と見まがう程に怯え、引きつけのように泣きじゃくる。時にオムツ替えの最中にもおしっこのアーチを先生の手に飛ばす子まで現れる始末だ。彼女らを放置すれば意思決定も感情抑制も我慢の出来ない乳幼児レベルの行動を繰り返し、最後は泣き疲れて眠るまでおしっこを垂れ流し、オムツを汚し続ける羽目になる――とはいえ、過程で生じる問題行動は様々だ。
 その特性が、退行病患者への理解を阻害していた。

「下らない……私は訓練だって聞いたからこんな気持ち悪い所にも自分で来たの! 毎日ちゃんと通って、あんな風にバカになった子ともぶつからないで……なのに、その仕打ちがこれな訳? 他の能力は何も衰えてないでしょ、だったら出来ない事よりも出来る事優先でやるしかないじゃない! なんでそんな事もわからないの!」
「でもね、佐英ちゃん。まずは落ち着く事から始めないと……」
「私は! 落ち着いています!! 馬鹿じゃないの、あなたたちこそ園児からやり直した方がいいんじゃないの!?」

 佐英は、園に来るまで大学院で数学を研究していた才女だった。研究も軌道に乗り未来の展望も開けてゆく――そんな矢先の発症だけに、未だに理不尽な環境への怒りも強い。だが、医師の診断曰く苛烈な感情は発症前からのものとされ、多大な成果により覆い隠されていた、元から存在した彼女の社会適応上の問題だと言うのだ。多くの退行病患者は多少なりとも佐英に通ずる性質を備えていた。欠点をカバーする長所を持って生活を営んでいた、そのせいで――

「いい加減にして……。私、もう帰ります。こんな幼児プレイの変態たちみたいに、一緒にオムツ当てられるなんてもうイヤ――」

 ――一度崩れれば、目を背けた『自分』が一番の障害となった。

 鋭く睨んでいた佐英の瞳が、怒りの表情のまま、一瞬で涙の海に潤んでいく。次の瞬間、怒りを伴う険しさはふっと力を失い、佐英は呆けた顔で頭を抱え、床に膝をついていた。

「あ……あぁ、い、いやっ……なんでっ、やだっ、こないでぇっ」
「どうしたのさえちゃん!? ひょっとしてまた『発作』!?」

 がたがたと全身を震わせながら、佐英はまるで『握った砂をこぼしたくない』とばかりに頭を抑えた指に力を入れようとしていた。だが、柔らかい指は髪の毛を滑り握り拳になってゆく。耳の上、左右両側でおだんごが出来上がると、佐英の唇が、不器用に歪んだ。

「ひっ、ぐずっ……いやぁっ……わかんなくなっちゃうのっ、もういやあっ……さえ、おべんきょう、したいのにぃっ……!」
「さえちゃん……」

 望んでもいないのに、身体は佐英の意思に反していた。瞳はポロポロと大粒の涙をこぼし、緩んだ口元から垂れた涎がスモックに水玉を作ってゆく、傍らに立つ保育士は静観をきめたまま、何も助けてはくれない。背筋から脳髄にかけて、おぞましい毛虫が這い寄る
ような悪寒に耐えた数秒が終わると、佐英は、はっとした表情で立ち上がり、その場から跳ねるように掛けだした。

「さえちゃん!? どうしたの、一体――」
「そんなっ――嘘だよねっ、嘘だって……なんでっ、どうしてっ……!」

 先生の止める声も聞かず、佐英はさっきまでいた机に抱えた絵本を強く叩き付け、中のページを目を更にして読み続けた。一ページ、また一ページ。速読の早さでめくるごとに、音に驚いて泣きじゃくる園児の声がだんだんとぼやけ、実感のない響きとして佐英の全てを取り囲んでいった。残り数ページ、終わりが来るのを拒むようにゆっくりとひらいて――静かな音と共に背表紙に辿り着く。
 読み終えた直後、佐英の瞳から一条の涙が、頬に一本の線を描いた。絵本に落ちた涙も拭わず、佐英はまた本を抱きかかえ、保育士の方を向いた。

「せんせぇ……ごほん、読んで……さえねぇ、ひらがなもよめなくなっちゃった……あはっ、ははははっ……うっ、ううぅっ……!」

 園で暮らすような大きな赤ん坊にだけは絶対にならない――そう誓ってひまわり園を訪れた佐英は、何も言わずに両手を広げてくれた保育士の胸に、自然と身を寄せる事が出来た。
 すすり泣きが止められない。濡れたオムツの中に迸るお漏らしの熱に内股もがくがくと震えるのが分かる。でもそれ以上に、赤ちゃんにもどっていく、さえのきもちが、なきたいから――

「うええええんっ……! せんせぇっ、さえのおむちゅかえてよおっ! ちっちきもちわるいのっ、おねえちゃんおむちゅしてぇ!!」

 佐英は自らごろんっと身を投げ出し、サイドギャザーから漏れたおしっこでびしょびしょになった紙オムツを保育士に晒した。先生は何も言わずに新しい紙オムツの入った収納棚に向かい、オムツと一緒に佐英が着る新しい洋服も持ってきてくれた。

「今日からさえちゃんは、スモックをやめてこっちの赤ちゃん用ロンパースに着替えようか。おむちゅいっぱい交換しなきゃいけないから、ぽんぽん冷えたらイヤイヤだもんね?」
「えぐっ、あかちゃんでいいっ、さえ、あかちゃんだもんっ……。うええっ、せんせえのばかあっ、みんなもきらいっ、いやっ、もうなんでもいいからぁっ! おむちゅっ、おむちゅちてえっ! さえ、あかたんだもんっ!! うあああああんっ!」

 バタバタと手脚を投げ出し、全身で『イヤイヤ期』を告げた佐英にはもう、周りを蔑み傲慢を振りかざす、幼い克己心すら残っていなかった。両脚をもち上げられ、両サイドを破られ開かれた、黄色く染る赤ちゃん用紙オムツがお似合いの、おしっこまみれのお漏らしっ子。新しいオムツをお尻の下に敷かれ、ロンパースを着せられてしまえば、お尻の中で大きく膨らんだオムツが愛らしい、大きな赤ん坊が出来上がった。

「さ、さーたん……ちっちでたらせんせいにいおう、ね? ちーでるの、あかたんだから……い、いいの、おこられないからっ……」
「み……みくもね、おむちゅだから……はじゅかちく、ないよ? いっしょに、ちっちのれんしゅう……うっうっ……ち、ちようねっ……ぐずっ……」

 ようやく仲間入りした新たな仲間を慰めるように、一人、また一人、おむつで膨らんだお尻を振ったよちよち歩きの園児・女児服、ハイハイや歩行器でやってきたロンパースやベビードレス姿の少女たちが、ベイビールックの佐英を囲み、悲しい子を慰めるように、オムツのお尻をぽんぽんと軽く叩いてくれた。軽蔑してきた園児たち、年上だけでなく年下からも赤ん坊として認められる恥辱に駆られて、佐英の泣き声も先ほどの号泣に匹敵するほど大きくなった。

「ひっ、ひぐっ、あっ、あああんっ、あああああんっ……!」

 何もかも投げ出すように、また一人幼児化していく自己を受け入れていく。それが現代的人間精神のサナトリウム――底意地の悪い識者が呼ぶ、退行児受け入れ施設の日常だった。


 保育士の目が離れた瞬間、結麻はこっそりと教室のドアを開けて廊下へ出た。今日こそ身体の芯から沸き上がった、得体の知れない感覚――『熱』の正体を、『思い出す』ために。

「はっ、あ、あふっ……。ふ、ふひっ……ふぅぅっ、んふーっ……」

 園内お漏らし常習犯の上位に入る彼女の臀部は、まるでデフォルメされた海外アニメのアヒルのようだった。スカートも穿かされず、丸見えになった紙オムツは執拗に重ね当てられており、パステルカラーの模様が愛らしいバックプリントも横に潰れている。左右にお尻を振ったよちよち歩きもアヒルどころか千鳥足のよう。赤ら顔で廊下をふらつく姿も飲み歩いた後の帰りを彷彿とさせた。背丈や胸部の発育で張り詰めた、似合わないコスプレのようなチャイルドスモックを除けば、むしろ自然な言動だった。
 結麻の実際の年頃は佐英と近く、世間にいれば売れ残りと言われるアラサー組だ。化粧もなく髪型も幼稚なボンボンで結んだ短いサイドテールだが、それでも美人とわかる顔立ちをしている。艶やかな黒髪は背中まで伸び、前で真っ直ぐ切り揃えられた姫カット。黒目がちの瞳に瑞々しい唇といい、人形の愛らしさを失わずに女性としても成熟した容姿は、十人いれば十人が振り向くオーラを放っていた。
 もし麻結が一人で静かに佇めば、それだけで非現実的な美を体現しただろう。だが現実は夢想の対岸にある。完成された美は不完全な媚に揺らいでいた。

(といれぇ……トイレまで行けば、きっと……楽になれる……からぁっ)

 結麻が『熱』を感じた時、いつも脳裏に浮かぶイメージは『トイレ』だった。退行病発症後は夜のオムツが取れなくなったが、お昼はちゃんとおまるで出来た。周囲にいる園児の様に泣いてオムツ替えをせがんだり積極的に赤ん坊になりきる程終わってもいない自負もある。それだけに、重ね当てられた紙オムツが忌々しい。股関節の可動域も狭まれ、思う様に歩けない。
 だが、最大の障害だったのは自由の利かない下半身より、刻々と身を焦がす『熱』の方だった。
 それも紙オムツを穿いた時ほど、逃げ場をなくした『熱』が身体に籠もり続けている。
 結麻自身、自分でももうどうしたらいいか分からなかった。
 それでも何故か時折、熱が身体から抜ける瞬間が訪れる。

「いっ、ひぅっ……は、はぁぁっ、んうぅぅっ……!」

 不格好な逃避行の途中、何度も太股の間で紙オムツが形を歪め、赤ん坊みたいなつるんとした剥き卵の秘部にぎゅっと圧縮された。その圧力に敏感な身体がぞくりと震え、腰骨が浮いた。反射的に嬌声が上がって、無毛の股座から『熱』が染み出し、紙オムツに雫となって零れてゆく。
 『熱』を逃がす感覚を忌避しながら、結麻の顔は喜悦に頬を染め、随喜の涙をこぼし続けた。内股を絞り、紙オムツを両手でぎゅっと抑えながら、『熱』の零れる恥部がしくしくと切なく疼く感覚に腰をくねらせ、熱い吐息を甘い音色と共にはあはあと吐き続けてしまう。
 媚態を晒すコスプレ園児は、退行病発症時からずっと大人だった頃から感じてきた『熱』に喘ぎ続けていた。コドモが知らない、オトナだけの甘い快楽――『性欲』の発散方法を、失ったまま。

「やっ、やらっ……おもらひでっ……ヘンになんか、なりたくないぃっ……。ふぐっ、えうぅ……っ」

 そうして、逃げ場を持たない内なる熾火に炙られ続けた結果。
 今や膝は生まれたての子鹿のように震えも止まらず、踏み出す一歩の歩幅も縮まってゆく。
 オムツの上から手を当てて、はしたなく腰を震わせて、必死に堪えてきたというのに。
 気を抜けば尻餅さえついてしまいそうだ。そうなれば他の赤ん坊たちのようにも成りかねない。
 最悪の想像に唇を強く噛み、結麻は震える自分の身体に精一杯の鞭を打つ。
 トイレまではそう遠くない。あと少し、もうちょっとだけ我慢すれば、すぐそこなのに――。

「見ーつけた!」

 目前のゴールに伸ばした手は、願いと共に空しく散った。歩みを止めた結麻の身体が、お腹に腕を通されて、そのまま抱きかかえられて宙に浮く。ぐらりと傾いた世界で見えたものは、教室にいたはずの保育士の顔。
 捕まってしまった。何もかもが遅すぎた。沸き上がる後悔の念で、結麻の表情も強ばってゆく。

「ほら結麻ちゃん、また教室から逃げたでしょー? もう、苦しいなら先生に言えばいいのに」
「や……おといれいくぅっ……せんせぇやめてよおっ!?」

 5歳も年下の女性とはいえ体格差はそう変わらない。なのに、結麻が保育士の腕から逃げだそうと藻掻いても、手脚に微塵の力すら入らなかった。ただ駄々を捏ねるように、可愛らしい身振りになってしまう。成人としての能力の減衰は、患者の仕草まで幼くさせていた。
 屈辱に堪えきれずに抗議の態度を見せようにも、羞恥に染まった赤ら顔の頬を膨らます位しか出来そうにもない。優しく微笑む保育士の余裕も、結麻のパニックを一層加速させた。軽蔑してきた大きな赤ん坊と同じ立場に堕とされた上に、あやされるように腕の中で揺らされるなんて。
 自分はオトナだ。扱いは不当だ。はっきり言いたかった。でも、言葉にならない。病気のせいで。
 行き場のない感情は、結麻の中で爆発しそうな程内圧を高めてしまう。

「せ、せんせぇは関係ないからっ……。おトイレ行けば、なおるのっ、だから……」

 いっそ爆発させてしまえば、どれほど楽になるだろう。
 そう思った瞬間、結麻を襲っていた幼児退行の波がふっと引いた。
 口調も思考も、少しだけだがオトナの感覚を取り戻している。
 反撃のチャンス。一抹の期待に煽られて、結麻が両腕に再び力を込めた、その時。

「へぇ、おトイレでナニしようとしてたのかなあ?」

 膨らんだ紙オムツが、鈍い音を立てた。保育士が軽く、結麻のお尻を叩いたのだ。
 痛みさえない微かな感触は、オムツの生地に小さなさざ波を立てた。
 ほんの些細な、ただそれだけの刺激が、紙オムツ越しに身体に触れた瞬間。

「ひ、ふああっ、せ、せんせぇっ!? それだめっ、ふわふわするの、おしっこ出ちゃうぅっ!?」

 結麻の中で、目の前を真っ白に灼くほどの強烈な電撃が、下腹部から脳天まで一気に駆け抜けていった。出口のない疼きが衝撃で解き放たれ、紙オムツの中に熱い飛沫を注いでゆく。
 弱火に炙られ蕩けきった結麻の身体は、熱を吐き出すための刺激だけに飢えていた。紙オムツに隠れた秘所も、露に蕩けた花弁が甘い喜びを受けて咲き始める。お漏らしとは違う、オトナの『おしっこ』――それが何だったか、今の結麻には知ることさえ出来ないというのに。

「へぇ、なんで? ゆまちゃんって、お漏らししないんじゃなかった?
 先生はゆまちゃんを楽にさせてあげてるだけだよ、ほら」
「ひぃぃんっ! あっあっあっ、あーっ、ふあぁぁっ!?」

 『いいこいいこ』と保育士からお尻を叩かれる度、結麻の喜悦の声が廊下に響いた。紙オムツに熱い始末を零し、がくがくと総身を震わせたその表情も、年相応の成人女性らしい色に艶めいている。着せられた園児服や先程までのよちよち歩きで見せた幼さも鳴りを潜め、背中を反らし、足の指先までぴんと伸ばして、肉体の内に爆ぜた法悦によがり狂ってゆく。求めていた解放を何もせずとも与えられては抵抗も何もない。ただ悶絶の内にあれば良い。
 だが、現実の醜悪さから目を背けるように快楽に溺れた結麻に、保育士は少しも優しくはしてくれなかった。

「わるい子の『まんまん』を、いいこになあれ、赤ちゃんになあれってよしよししてあげただけだよ?」

 保育士の吐いた一言。甘ったるい幼児語を耳にした途端、結麻の顔から酔いが消えた。随喜の涙を零した瞳は不安に曇り、赤ら顔に浮かぶ表情も怯えに歪んでゆく。両手でぎゅっと両耳を塞ぐや否や、結麻は泣きだしていた。

「やっ、言っちゃやああっ! はじゅかしいのっ、やっ、いやだあぁっ……ひっ、ひぃんっ……」
「あらあら、お顔真っ赤にして、ゆまちゃんカワイイでちゅねえ。
 さっきだってあんよの時、おむちゅに『まんまん』ぎゅっぎゅってされて、あへあへしちゃってたクセにぃ」
「あ、あっ……し、してないっ、しないからぁっ……そんなことしないのっ……。
 えぐっ、わたひっ、そんなの、しないぃっ……。はじゅかちいのやあぁっ……。
 せんせぇ……ゆまにいじわるしないでっ、いっちゃやだっ、ふえええんっ……!」

 感じたのは、得体の知れない恐怖感。退行病の前兆は大半が日常的なお漏らしの経験として現れるが、結麻のケースは余りに特殊だった。
 セックスに対する罪悪感、オナニーへの恐怖感――自らの美貌をもって奔放な性経験を送ってきた結麻に起きた退行は、性的行動への能動性の喪失――最終的に、自分の女性器の名前を言ったり呼ばれたりするだけで泣き出してしまうほどに、結麻は自分の身体を持て余してしまった。
 なのに、溜まっていく欲望だけが結麻の身体を熱くしてゆく。悶々とした日々を送るストレスで他の生活能力も失った結果、ひまわり園通いの必要な特別保護対象、年長超過児童として管理されている。

「よちよち、ゆまちゃんも辛かったんだよね、先生わかるよ。
 からだのぽかぽか、イヤイヤしないやり方ですっきりしちゃおうか、ねっ?」
「ふぇ……で、でもっ、それは……」
「それじゃ、『まんまん』よしよししちゃう?」
「う、えぐっ、ぐずっ……せんせぇ、『まんまん』……やだよぉっ……!」
「はいはい、それじゃお部屋に帰ったら、赤ちゃんのやり方ですっきりしようねえ」
 
 自分の性器の名前も言えないクセに優しいお尻叩きの刺激に悶えて紙オムツに愛液を垂れ流す無様な成人園児は、年下保育士の胸に抱かれて甘えた声でぐずり続けた。理不尽な倒錯に囚われた己を嘆こうにも、今の結麻には自分を苦しめる快楽から逃れるために、誰よりも保育士を求めずにはいられずにいる。

「ゆまちゃんがせつなそうにしてるの、先生だってちゃんとわかってたんだからね? ほら、いつもの」
「い、いらない……。それのんだら……ち、ちぃ、でちゃうから……」
「でも、もうがまんできないんでしょ? ゆまちゃんの『おだいじさん』も、せつないんだよね?
 だったら、のんじゃえばいいんだよ。楽になれるよ、ほら」

 抱きかかえられたまままた再び戻された教室で、保育士は恥ずかしい甘えん坊の結麻のために、テーブルの上に終わらない苦しみから逃れることができる、解放への鍵を置いてくれた。
 だが、いざ目の前にしても、結麻の手がそれに伸びる事はない。むしろ更に恥ずかしそうに萎縮して、抱きかかえてくれた先生の胸に逃げ込もうとするばかりになる。
 透明な瓶の中に乳白色の液体が揺らぐ。母親の乳首みたいな飲み口の蓋から薫ってきたのは、甘ったるい匂いはミルクの味。哺乳瓶なんて園児どころか赤ん坊の使う代物だ。しかも、飲めばきっと、他の園児達のように――

「えっ、えうぅっ……。だめ、だめなのっ……ま、まんま、ちゅぱちゅぱしたら……ちっち、もれちゃう。
 ゆま――わ、たし、大人なんだから、赤ちゃんみたいな、お漏らしなんて……うぅ、あうぅ……」

 にこにこ笑って結麻を見下ろす、保育士の言葉がなくても分かっていた。結麻のような病状進行の鈍い園児に、保育士が飲ませたミルクはほぼ利尿剤が入っていた。『赤ん坊になんてなりたくない』『おむつなんてイヤだ』――退行病初期の患者が抱えるストレスは、より病状を深刻なものにしてしまう。問題行動を誘発させ、園での保護から檻付きの病院での拘束入院に移されることもあるからだ。ならば、問題行動抑制の為には、患者本人の速やかな病識理解の促進が欠かせない――要は、赤ん坊でも良いんだと、周りの大人がみとめてやることだ。
 名目は美しいが、実際の現場運用は大いに異なっていた。保育士が結麻を見る眼は、明らかに玩具がこわれてゆくのを悦ぶ嗜虐者のサディズムを露わにしている。

「へぇ、ゆまちゃん、オトナの女の子なんだぁ。一人で『まんまん』も触れないクセに」

 ブロックワード――パニックを引き起こすたった一つの単語で、結麻は毎日の様に涙するほど恐怖させられ、保育士のなすがままにコントロールされていた。自分が楽しんできた快楽も奪われ、成人としての矜恃も否定され、逃げることさえ許されない成人幼児の巣の中で、現実逃避の喜びも最早自分一人では味わえない。

「ひっ!? いやっ……いやあああっ! せんせいのばかぁっ!!
 ちゅっ、ちゅぱっ、んっ、んくっ、んうぅ……!」

 保育士の手に慰めて貰えば、もっと酷いパニックを起こされるだろう。いまここにある恐怖から逃げ出したい――ただ必死の逃避行動が、結麻の矛盾を正当化した。
 結麻は哺乳瓶を奪う様に両手で掴むと、唇から零れるのも厭わずに、強い勢いで中のミルクを吸い上げていった。

「んくっ、ふっ、ふぅうぅ、えうぅ……けぷっ」

 喉を鳴らし、鼻息荒く、歯が溶けるほど甘ったるい甘露を意に流し込んでゆく。空気まで大量に吸って、かわいいげっぷを一つ吐いた時。
 熱に浮かされ、はしたない涎をだらだら零してまでぐずり続けてきたお腹の奥から、尿意の波が押し寄せてきた。
 愛液塗れの紙オムツをお尻で潰すようにもぞもぞ浮かせて少しでも堪えようとしてみても、結果はいつも同じだった。

「ふ、ぅん、んぁ……。あ、あっ……! うあああぁぁっ……!」

 緩みきった関門から小さなせせらぎが流れ出すと、下半身の力はふっと抜けていった。ミルクを飲むのも止められない内にせせらぎは急流にかわり、無毛の秘所から広がってゆく漏らしの熱が、紙オムツの中に流れて渦巻いていった。
 あれほど楽になりたかった筈の、身体の中で熟んだ熱も、お漏らしと共に流れ出してゆく。今の結麻は、ずっと幼稚だとバカにし続けたオムツお漏らしでしか、溜まってしまった性的欲求不満を処理することができずにいた。

「ほら、おむつにおもらししたらすっきりしたでしょ? ゆまちゃん、またせつなくなったら先生がまんま飲ませてあげるから、いっぱいおむつにちーしちゃおうね。赤ちゃんが気持ち良くなれる方法は、おむつおもらし以外ないんだから……」
「あ、ひっ……ふぁ、あぁっ、んぅうっ……。んくっ、こくっごくっ……ちゅむっ、ちゅっ、んむぅっ……」

 退行病患者の顔は決して感情を隠さない。惨めな病状に瞳は涙を零れても、唇は喜びに歪んだ泣き笑いの無様に成り果てていた。お漏らしが尿道を勢いよく駆け抜ける度に、腰骨が浮く程の快楽に浸る現実に、愛欲に飢えた身体は情けないほど正直だった。『オムツを当ててミルクを貰えば、気持ちいいお漏らしをさせてもらえる』――その喜びを、情けない顔で露わしている。
 どんなに園児服が恥ずかしくても、年下の保育士の扱いが酷くても、乾きを癒やす甘露はもうこれ以外に無い。
 それが自らの病状進行を早めることになっても――うつろな目で、ミルクを飲みながらお漏らしを繰り返してゆく結麻の頭では、もう判断もつかないことだった。



 ひまわり園に入園した当初の退行病患者たちは、病識(自分が病人だという自覚)を持てず他の園児や保育士に反抗することが多い。その筆頭格が白地に水玉のリボンで長い髪を結ぶ、ポニーテールがお似合いの清蘭だった。

「――るせえっ! お前らと一緒にされたくねえよ!! ガキになりきったバカの真似なんて出来るかっ!!」
「あーっ、またきよらちゃんがわがままいってるー! 先生よんじゃうよー?」
「ふざけんなっ、なんでオレがおままごとなんかしなきゃなんねえんだよ! お前らと同じレベルに落ちてたまるか!!」

 どうやら、病気に罹る前からおともだちと仲良くするのが苦手だったらしい。清蘭は今日もスモックにオムツ姿の園児たちが座る輪の中で、彼女たちと同じ格好を見せるようにすっくと立ち上がり声高に反論していた。
 だが、他の園児たちも慣れたもの。顔を真っ赤にして地団駄を踏む新入りが何を求めたのかとっくに気付いている。

「せんせーっ、きよらちゃんがまたあまえんぼしてるー!」
「ばっ、バカっ!? 誰がそんなこと言ったよっ! 呼ぶんじゃねえっ、関係無いだろっ」
「はいはい、いまいくよー。もー、しょうがないなあ、きよらちゃんは赤ちゃんなんだからぁ」
「やっ、来なくていいからっ!? くんじゃねえよっ!?」

 清蘭がけらけらと笑いながら声を上げた園児の口を慌てて塞ぐより早く、保育士がやってくる方が早かった。168㎝の高身長の清蘭にとって、年若い小柄な保育士に見上げられても普通なら威圧感さえ感じないはずだった。だが、朗らかに笑う保育士に前に立たれた途端、険しい表情もどこへやら、慌てふためき目線まで泳ぎ出してしまった。

「きーよらちゃんっ! 先生が来たから、もう大丈夫だよお。もうイヤイヤしなくていいからねえ」
「な……何が、大丈夫なんだよ、ばかやろぉぉ……」

 保育士たちは誰も、園児達に間延びした、人を喰った様な幼い言葉遣いで接している。あまりに情けない扱いに、清蘭も最初はただバカにされているだけだと気分を逆撫でられるばかりだった。だが、病状が進行して昼も紙オムツを穿くようになった頃から、清蘭にも確かな変化が起きてきたのだ。

(な……なんでっ、こんなヤローの顔さえ見れねえんだよっ……。やめろよっ、こっち、見んじゃねえよお……)

 『こうこうせい』のお姉ちゃんだった頃の清蘭は、禍々しい凶眼で人を睨みつけるばかりの荒んだ少女だった。ずっと人から視線を逸らされる様な事ばかり繰り返し、彼女自身威圧感で他人を圧倒してきた自負があった。だが、今の清蘭を見てそんな過去を想像する者は一人もいない。もじもじと太股をすり合わせながら、頭に手を当てイヤイヤと可愛らしいフリまで見せて恥ずかしがったオムツ園児は、威圧感どころか子犬にさえ怯える臆病さを見せている。

(ダメだっ、しちゃうからやめろって言わなきゃ……! お前のせいで、オレのビョーキ……アタマ、おかしくなるって……)

 ぷるぷると身体を震わせ、風船みたく頬袋を膨らませた清蘭の決死の抵抗を、周りの園児達もくすくすと笑う。その囁きに清蘭はまた顔を紅く染め、紙オムツの中に熱い雫を零してしまう。僅かなお漏らしでオムツの『おしっこお知らせサイン』を淡く浮かび上がらせながら、それでも清蘭はなけなしの気力を振り絞って、保育士に抵抗の弁を向けた。

「やっ、やぇ……めぇ、だって、いってるっ、だろっ……。もう、いいからっ……」

 だが、それを聞いた保育士もただただ苦笑するしかなかった。ガクガクと膝が笑うのも止められず、腰砕けになった元不良少女にガンなんて飛ばされても、おしっこを我慢しながらトイレの列に並ぶ3歳児にしか見えないものだ。
 幼児用紙オムツに恥ずかしい『ちっち』のシミをつけながら、今にも崩れ落ちそうな清蘭を崩すのは、指一本使わなくても容易い仕事だった。

「あらあら、頑張っちゃって。えらいねえ、きよらちゃんはやっぱりお姉ちゃんだねえ」
「あ、ああ……。はうっ……!」

 保育士が一言、優しい言葉をかけただけで、清蘭はまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
 顔を両手で隠し、さっきよりも大きな素振りでイヤイヤをするものだから、ぶんぶんと長いポニーテールが勢いよく空を切る。手脚も伸びきった大人の身体を持ちながら、仕草はどこまでも幼稚だ。心はまだ大人だと思い込んでいても、言動が追いつかない『意識の高さ』ではどこまでいっても『お姉ちゃん気取りの保育園児』にしかならないというのに。
 自身の言動の情けなさは、勿論清蘭だって自覚していた。だが、自覚していたからと言って、コントロールが届く訳でもない。身体だけでなく、心さえ思うようにならない。保育士の言動、一つ一つに気持ちは波のように揺れるから。

(なんだよコレっ!? お、おかしいだろオレっ、さ、さっきからションベン止まんねえしっ、か、身体熱くなってっ、へっ、ヘンになるっ、ヘンにさせられるっ……やだっ、イヤだっ、ま、またオレっ、アイツらみたいに……赤ちゃんに、されちゃうっ……)

 胸の中で心臓が飛び跳ねる。一鼓動毎に血液が全身を一巡しているみたいに、身体は頭の芯まで熱に沸いた。はっはっと短く吐いた犬の呼吸で、また気持ちがきゅんきゅんと切なさを増す。押し寄せる波が膀胱にまで届くから、キレイに剃った『おんなのこのおだいじさん』からじわり、じわりと『ちっち』が染み出して、オムツの中がまた暖かくなった。
 このままじゃダメだ――そう思って、顔を隠した手の指の隙間から、保育士の顔を覗こうとするも。

「きーよーら、ちゃん?」
「ひゃんっ!?」

 屈伸の途中みたいに膝を折って『見下ろしてきた』保育士『せんせぇ』の視線と正面衝突して、清蘭もすぐ掌の裏に隠れてしまった。今まで乗ったどんなジェットコースターよりビックリしてしまって、オムツの中でも今日一番大きな音を立てて、水鉄砲みたいなお漏らしをしてしまった。

(なんだよ今の声っ!? アイツらと同じガキの声じゃねーかっ!? や……やだ。オレはこーこーせーで、おねえちゃんで!? てかまたちっちでちゃった……オムツかえられちゃうっ、やだっ、あかちゃんなっちゃう、オレ、あかちゃんじゃないのに!!)

 お漏らしのショックで理性も揺らぎ、心の中で唱えた言葉から段々イメージが剥がれ落ちてゆく。大人という言葉はおねえちゃんに、高校生はこーこーせーに。緩んだ門を閉じようとぎゅっと目をつぶり下半身にばかり注意を向けたために、清蘭はもう外の世界などまるで目に入っていない。

「はぁい、つーかまーえたっ」
「ふぇ――ふええええっ!?」

 だから――急に、がくんと身体が浮いたのに気付いた時は、もう保育士の腕の中だった。

「もー、ほんときよらちゃんったらあまえんぼさんなんだからぁ。かあいいなあっ、もー。先生の赤ちゃんにしちゃうぞぉ?」
「や、やああ……!? あ、あかちゃんやぁ……。お、れぇ……あかちゃんじゃ、ねぇぇ……はうぅぅっ……!」

 対面座位のことをひまわり園ではコアラさん抱っこと呼んでいる。甘えん坊の園児が保育士にせがむ定番だ。自分より若い『せんせぇ』にすがりつき、瞳をとろんと蕩けさせながらオムツをじわじわ汚していく20代後半の園児は多い。威勢の荒い清蘭にしてみれば、幼児退行は反面教師でしかなかった。なのに、逆らう間もなくされてしまうなんて。

「や、やみぇろぉぉ、へんにゃこと、しゅんじゃにぇ……」
(こ、こえ、おかしいっ!? おれのこえ、へんたいのこえっ、あかちゃんのこえになってるっ!? いやだぁっ!?)

 心の奥底で警報アラームがけたたましく鳴っているのに、先生の柔らかい腕に抱かれた途端、清蘭の身体もまるで力が入らなくなった。我慢の隙間を縫って零れただけのお漏らしも、じわじわと、少しずつ流れ始めてしまっている。

「きよらちゃん、せんせいにコアラさんだっこされてるー! いいなーいいなー! せんせい、わたしもわたしもー!」
「みんなは後で。いまはこのあまえんぼさんをいっぱいすきすきしてあげる番です。一人占めだもんねぇ、きよらちゃん」
「あ、やぁあ……やみぇえっ……えへっ、あふえぇっ……」

 まるで全神経に甘い毒が回ったように、清蘭の感覚が麻痺してゆく。口いっぱいに溢れ出した涎に溺れ、舌さえ上手く回ってくれない。その上、穿きたくもないもこもこの紙オムツのお尻をぽんぽんとやさしいリズムで叩かれてしまえば。

(な、なにこりぇえっ、へんっ、へんになっひゃうっ、へんなきもひしゅるっ……)

 天にも昇る多幸感に襲われ、きりっと結んだ口元にぐっと睨みつけた目尻さえも、ふにゃふにゃと緩んで蕩けてゆく。あふぇ……と涎と一緒に幼児語を零すことも止められず、園児服に濃い水滴の痕を残しながら、芯の抜けた身体はゆっくりと『せんせい』の方へとしなだれかかってゆく。それはより一層自分をダメにすると、清蘭にも分かっているのに。

「せ、せんせぇ……ぽんぽんやめひえぇ……。へんに……おりぇ、ひぇんににゃるかりゃあぁ……」

 大人の身体になっても潜んでいた幼児性は隠せなかった。ずっと抑圧してきた自分を丸ごと受容される幸福感は、底なしの泥沼の様に清蘭の存在をずぶずぶと自重にまかせてゆっくりと幼児退行へと沈めてゆく。
 それを間違いだと、自我の中で叫ぶ理性も、遂には朽ちて。

「えー、あまえんぼさんはぽんぽんされるのいやいやかなぁ? ふふっ、きよらちゃんも、すっかり可愛くなっちゃったねぇ」
「か、かわっ、かわひっ――!? ひぁ、あ、あっあっ、ああぁあ……!」

 保育士が赤ちゃん言葉で清蘭を褒めた瞬間に、こわれてしまった。

「あ、あああっ……! ち、ちっちぃ……ちぃでるうぅっ……はふぅ、ふあぁ、あぁあああぁっ……」

 もう、清蘭は両手で顔を隠してはいなかった。しっかりと先生の背中に手を回し、コアラさんのようにしっかり捕まっていた。にこやかに目を細めた先生の顔から目線も離さず、しっかりと見つめながら、潤んだ瞳で甘い声を上げていく。柔らかな太股に腰を深く落としたままに、閂(かんぬき)の開いた門から大洪水が一気に溢れてゆくのを止めようともしなかった。頭の中で暴発した気持ちの勢いで、膀胱に堪っていた尿意も次々に誘爆していく。

「きよらちゃんって、ほんとカワイイでちゅねぇ。イヤイヤしてても、ほんとは先生にあかちゃんされるの、しゅきしゅきなんでちゅもんねぇ」
「い、いやああっ、しょ、しょんなことなひっ、あかたんいやらもんっ……!」
「えー、先生はきよらちゃんが赤ちゃんになってくれるとうれしいのになぁ。だって、あまえんぼさんのきよらちゃんのおせわも、きよらちゃんも、しゅきしゅきなんでちゅからねぇ」
「ひっ! しゅ、しゅきなんて、いっちゃひや……あっあっあっ! ひぃぃいんんっ!」

 清蘭が一度子どもの喜びに呑み込まれてしまえば、いつしか身体までゾクゾクと震え出した。後で絶対後悔する――そう思っても、先生に嬉しい言葉、恥ずかしい言葉、赤ちゃん言葉で褒められるたびに、脳天から足の指先にまで歓びが駆け抜け、膀胱から尿道まで身体全身で悦んでしまう。言葉で表しきれない思いは身体表現にまで波及する。清蘭が先生に抱かれる度に嬉ションの回数は増える一方だ。耳にかかる先生の吐息さえ感じてしまい、勢いよくオムツに放たれたお漏らしの刺激で、赤ん坊のような大人の身体さえおしっことは違う大人のお漏らしでぐずぐずとぬかるみ出してゆく。
 清蘭は淫臭と尿臭に塗れた紙オムツの中で流れた雫と垂れた涎を混ぜ合わせるように、先生の太股に紙オムツをなすり付けだしていた。自涜とよぶには余りに弱々しい刺激も、飼い主に全身で臭いをこすりつける猫のような仕草でより一層興奮が高まり、紙オムツ内も幼い恥臭で一層蒸し上げられていく。

「あらあら、またきよらちゃん、うれしくてちーでちゃったんでちゅかぁ? こまったねぇ、きよらちゃん。きよらちゃんって本当に可愛いから、カワイイカワイイってほめられちゃうたびにちーでちゃって、もっと可愛くなっちゃうねぇ。可愛いおむちゅの交換の時も、ずーっとちっち止まんなかったら、もう園児服じゃなくて赤ちゃん服に着替えちゃった方がいいかも。そしたらもっと可愛がってもらえるよね! きよらちゃんは、ひまわり園の赤ちゃんなんだから」
「ひっ、くひっ、ひぃぃんっ……。せ、せんせぇ、らめっ、とまんにゃっ、ちーとまんにゃいぃよぉ……。
 かわいいなんて、いっちゃや……あっあっあっ! ひっ、いいいぃんっ……!」

 へこへこと腰をふってオムツを汚し続けた清蘭はもう、すっかり甘えん坊の幼児のように柔和な顔になり果てていた。一度火が着きさえすれば素直なもので、一頻り満足するまで抱っこされたあと、オムツを替えられた後の清蘭は先程までの勢いも嘘のように大人しくなった。

(またやっちまった……お、おかしくなって、こんなこと続けたらオレ、おれぇ……。くそっ、くそぉっ……も、もうっ、こんなオムツでなんてお、おっ、おなっ……ああもうっ、なんでアタマから離れないんだよおお!)

 自分から動くだけの気力も失い、醒めない熱に悶々と頬を赤らめたまま座り込んだ清蘭は、すっかり適応した他の園児に言われるがままに手を引かれたり、おままごとやおゆうぎをこなしていった。瞳は宙を見つめたまま、夢遊病患者のように地に足のつかない様子で、時折またポニーテールを揺らすほど顔をぶんぶんと横に振ったり、ぼんやりと親指に吸い付き右手が涎まみれにしている。紙オムツも気付けば濡らしている始末で、紙オムツを開けば必ずおしっこ以外の糸を引く雫まで垂れ流し、それを周りで見守る園児たちに笑われてはまた、恥ずかしそうに内にこもり続けた。
 それでも、先生が特別なおもちゃを持ってきた時だけは、清蘭が目を輝かせて能動性を取り戻すことができた。

「はぁい、それじゃあ今日もみんなで取り合いせずに、仲良く一緒に遊んでねぇ」
「あ……あれ、ぷりきゅあの……!」

 退行病患者の幼児退行は、言動思考に留まらない。趣味嗜好さえ退行してしまう。
 先生が持ってきたのは、同世代の少女なら視界にさえ入らないような、戦うアニメヒロインの変身アイテム。
 今の清蘭にとっては安っぽいプラスチックの透明な煌めきさえ宝石よりも魅惑的で、心を掴んで離してくれなかった。

「今日の番は……きよらちゃん! ほら、この前イヤイヤしてたから遊べなかったでしょ? はい、どうぞ」
「べ……べつに、いらねーし……」
「ほら、これでプリキュアのお姉ちゃんに変身できるよ? きよらちゃん、お姉ちゃんになりたいでしょ? よかったねぇ」
「う、うれしくねーしっ! おねえちゃんなんか……ぷ、ぷりきゅあの、おねえちゃんに……へんしん……うぅ……」

 興味が無いことを示すために清蘭もわざとらしくそっぽを向く。だが、一度目にしたらもうダメだった。視界に入った変身ヒロインの玩具に、どうしても気を取られてしまう。何度も横目でチラチラと見て、その度に胸が躍ってしまっている。

(誰があんな……ぷりきゅあなんて、ガキの見るマンガだろ!? おれはおねえちゃんで……ちがう、園児じゃない、あんなの持ってへんしんなんか……したくないっ、したくないのにっ)

 頭に浮かんだイメージは、自分をアニメの登場人物に投影させた途方もない夢想。清蘭も顔を赤らめ必死に否定するも、妄想の甘美さに惹かれて胸の鼓動が更に高鳴ってしまう。期待と羞恥に悶々と身悶える清蘭に、保育士が手をさしのべた。

「ほら、きよらちゃん。持たせてあげるね」
「あっ――あ、ああああぁっ!」

 握らされた変身ヒロインの玩具に気付いた瞬間、清蘭の中でまた歓びが爆ぜていった。ほっぺたが緩むと同時に、替えて貰ったばかりの紙オムツにまた盛大に嬉ションを漏らしてしまう。ジョロジョロと音を立てて溢れ出した快感に膝が笑い、その場で固まった清蘭を保育士はわざわざ鏡の前まで連れてきた。
 今の自分が、どんなに幼稚な子になっているのかを、確かめさせるために。

「ほら、きよらちゃんもプリキュアにへんしーん! よかったねぇ、いっぱい遊んでプリキュアのお姉ちゃんみたいに、パンツ穿けるようになろうねえ!」

 鏡に映っていたのは、黄色く染めた紙オムツを両脚に釣り下げて、無邪気に笑う園児服の少女の顔。
 誰にも舐められないように、人を睨み続けた凶眼の面影はそこにはなく、すっかり丸くなった黒目がちの瞳がきらきらとか煌めいていた。
 嬉しそうに変身ヒロインのステッキを握る少女は、辿々しい手振りでポーズを取ると、更に笑顔を咲かせていた。
 その間もずっと紙オムツに黄色いシミを広げながら、清蘭自身に向かって、嬉しそうに語りかける。

「う、うんっ、なりゅっ、なるからぁぁっ……。うぅ、あううぅぅっ……」

 鏡越しに、保育士がまた新しいオムツを持って清蘭の元へと戻ってくるのが見えた。ここでは、園児が何も言わなくても保育士が全て世話を焼いてくれる。甘え続けられる世界では、虚勢を張る意味も自然と失ってゆくものだ。
 保育士に手を引かれた清蘭は、お漏らしで重たくなったオムツでがに股になりながら、オムツ替えコーナーへと歩いていった。
 他の園児たちと同じように、無邪気な大きな赤ん坊らしい、朗らかな笑顔で。


「みんな、集まって! みんなにお知らせしたいことがあります!」

 保育士の呼びかけを聞いた途端、教室中の園児たちはびくりと身を震わせた。どの子もおどおどと不安げで、表情を曇らせたり、瞳に涙を溜めて俯く子もいる。恐怖に堪えきれず立ったままお漏らしまでしてしまい、オムツから溢れたおしっこで床で水溜まりを作る園児まで出るほどだ。
 絶望的な空気に沈んだ園児たちとは対照的に、保育士は明け透けに明るい顔を見せている。
 誰もが目を逸らしてきた退行病末期患者の行き着く先を傍らに置き示しながら、嬉しそうに話し始めた。

「みんなのお友だちだったひなちゃんは、今日でひまわり園を卒園することになりました!
 ひなちゃんのお姉ちゃんになってもいいよって人がひなちゃんをおせわしてくれるから、明日からひなちゃんはあたらしいおうちで、いっぱい可愛がってもらうんだよ。
 みんなもさびしくなるとおもうけど、まいにちひまわり園に通ってるお友だちもひなちゃんみたいに、かわいがってもらえるようにがんばろうね!」

 脳天気な保育士の言葉を聞いた途端、園児たちはみなめいめいにすすり泣いたり、ぬいぐるみに真っ赤な顔を埋めて拳を振るった。間延びした子ども向けの口調で告げられた事実は、『もう二度と成人としての生活は送れない』――大人の人格への死刑宣告であり、今後一生保護者に管理されなければならない幼女扱いへの通告だ。
 それが嘘でないことは、保育士のそばでもじもじと太股をすり合わせていた『姫奈』の言動を見れば明らかだ。

「あ……あのねっ、ひーちゃのおねぇちゃん、ひーちゃのおむつ、よちよちしてくれるの……。
 かわいいおむちゅあててくれて、おしっこいっぱいでたねえってほめてくれた……。
 だからひーちゃ……。お……おねぇちゃんとこ、いくのっ。
 ちっちゃなおねえちゃんのようちえんで、かわいいおひめさまになるよぉ……」

 『姫奈』もまた、定めに抗ってきた園児の一人だった。日に焼けたギャル系ファッション好きのスレた16歳児の今の外見は、サイドテールの似合う如何にもあたまの弱そうな巨乳園児に成り果てている。胸元だけぱつんぱつんに貼っていたピンク生地のアニメキャラ柄プリントチュニックは食べ物の染みと涎でべとべとに汚れていて、ファンシーな3重フリルスカートのお尻から覗く紙オムツも、常に垂れ流されていたお漏らしで一日中黄色く染まったままだ。
 暗い顔を浮かべた園児たちも、今や見る影もなくした彼女の惨状を哀れみ、悲しみ、未来の自分の姿を投影していた。夢見心地に蕩けた瞳で宙を見つめたまま、紙オムツでとじられなくなったO脚をよじらせ、甘えんぼうの2歳児みたいな言動に自ら酔い痴れるような倒錯性癖を嫌う新入生たちは、泣きそうな目をキッと尖らせて睨みつけていた。
 それでも、ひまわり園には誰一人として、手を上げる子や叫ぶ子さえもいなかった。どの園児たちも静かに絶望を望みながらも、穿かされた紙オムツの中が熱い雫で満ちてゆく感覚に囚われ、弱々しく身震いし続けていた。
 だれもがみな、言い様のない興奮と倒錯への期待を雫に零し、グズグズと幼児退行してゆくばかりの自分の弱さから立ち上がることさえ出来ずにいる。
 静謐を破ったのは、隣教室から届いた泣き声が切っ掛けだった。

「ちがうもんっ、まなぱんつはかないもん。おもらち、まなわるくないのっ、先生がおむつつけてくれないからぁ――」

 狂った言葉で泣きじゃくる園児の声に釣られ、他の園児たちも釣られて合唱をはじめてゆく。
 ひまわり園で消費する紙オムツは、今日も一箱では到底足りないようだった。
スポンサーサイト
デリヘルもソープもイメクラも気に入った子がきっと見つかる
超大型リニューアル中の大好評風俗情報サイト!
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。